20年以上、フィギュアスケートを専門に映像を撮り続けている福生映像。彼らはどんな小さな地方大会でも足を運び、時には朝5時か夜11時まで休むことなく選手の姿を撮り続けています。
 心の底からフィギュアスケートを愛し、真摯に選手の演技と向き合い、選手本人やその家族、コーチのみならず全国のスケート連盟関係者からも絶大な信頼を得る福生映像の代表・中川和明さんとその妻・ゆかりさんに前回に引き続き、話を伺いました。

 

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最大7台のカメラを回しています

 

国内の大会はすべて行っているんですか?

和明「いまは、同じ日に重なる大会が増えたので、北海道はうちの弟子がいるので、彼に任せて。西日本はもう一人仲間がいて。だいたい3人で回しています」

ゆかり「本州以外の大会を撮影するときは機材がいっぱいなんで、飛行機ではなく、機材を丸ごと乗せた車でいきます。私たちは車で移動。最初は高速代が出なくて、全部一般道で移動したり、夜行バスを利用したりしていましたね」

 

休む時間はありませんね。

和明「日本は頂点が高くなり、すそ野が広くなった。社会人の大会も前は映像を買わなかったけど、いまは買うようになりましたね」

ゆかり「ひとつの大会のボリュームも出てきましたから」

 

トラブルもありましたか?

ゆかり「一番滑走の選手の時にボタンを押し忘れたことはありますよ。いまは押し忘れがないように、ひとつだけじゃなくて4つぐらいのいろんな方法で残すようにしています。どれかひとつは残せるように。メインは押し忘れてもサブはきちんと作動しているようにしていますね。ハードディスクだけじゃなくて、展示用のブルーレイにも落とし込んでいます」

 

やり直しがきかないから緊張の連続ですね。

ゆかり「カメラは4台あるんですが、操作するのはひとりなので」fussa20191223

 

カメラの台数は大会ごとによって違うんですか?

和明「今日は4台です。一番多いときで7台ぐらいです」

 

7台となると、どれぐらいの規模の大会になるんですか?

ゆかり「規模ではなく、そのスケート連盟の方が、どこでも設置して良いよとおっしゃってくださったときにはそれぐらいの台数になります」

和明「会場によって設置できない構造のところもあるんです。正面の高い位置からや選手の出入り口のあたりとかいろいろとできるところに設置したいのですが、構造的に無理なところもあるんです。それだと台数が減ります」

ゆかり「地方大会に行けば行くほどカメラの台数は増えます。反対にブロック大会のように大きな大会だとカメラ1台という指定があって、1台しか設置できないこともありますね。得点を撮るカメラ、上から撮るカメラ、出入り口のカメラ、スーパースローのカメラといろいろと遊べるのは地方の大会になります」

 

カメラの種類がいろいろとあるんですね。

和明「得点を撮るだけのカメラもありますよ。だから選手の表情を撮りながら、得点が発表されたらマルチカメラで、切り替えます。切り替わったときに選手がコーチと抱き合ったりとかするのもまた切り替えて撮る。複数台のカメラがあればできるわけです」

ゆかり「学生の大会だと、他の学生たちが応援しているところも撮ったりしますよ」

 

応援している他の仲間の声や姿も記録として持っておきたいですよね。

ゆかり「そうです。学生さんの中には、“自分の演技はいらないから、応援している仲間の映像が欲しい”という人もいますよ」

和明「友達が映っているから買うとかね。自分のはいらない、お友達が映っているから欲しいと。“そうか!”と思って、撮って編集するようになったら、売り上げが上がりました」

ゆかり「アイディアがいろいろと出てくるみたいで。あれもしたい、これもしたいって。お客さんがどうしたら喜んでくれるか、それを可能にしていくことができるのかをずっと考えています」

 

複数台のカメラはどうやって操作しているんですか? 全部のカメラ回しっぱなしですか?

ゆかり「いえ、会場でスイッチャーが目の前にあるので、そこで切り替えます。演技中はメインカメラ1台なんですが、その他のカメラはマルチカメラを使って現場で随時、スイッチャーで切り替えます」

和明「次はこのカメラ、次はこのカメラと“ババババッー”と切り替えます」

ゆかり「会場で編集をしていくんです」

和明「それをあとで編集するとなると追いつかないんです。毎週のことなので」

 

例えば今からA選手が出てきます。その出てくるところのシーンを映すカメラのスイッチを入れて、演技中はメインのカメラで撮り、演技が終わったら、今度はコーチと抱き合うようなシーンが撮れるようなカメラに切り替えたりするんですか?

和明「そうです。点数が映し出されるカメラ、観客席でほかの選手が拍手しているところなど、いろいろとです。そうすると面白いんですよ。ひとりの選手でもいろんなシーンが撮れて。それをすぐにブルーレイにして、会場でみんなに見せられるわけです。そうすると、選手や親御さんは“欲しいな”と買ってくれます。友達や先輩と映っているのが嬉しいみたいなんですよね」

 

演技の前後にストーリーがある

 

学生が買えるぐらいの値段設定なんですね。

ゆかり「通常は3700円からですが、大会によっては1500円ということも」

和明「参加人数が多い大会やイベントのときなどは安くすることもあります。でも購入してくれる人が多いので、安くしても採算がとれるんです」

ゆかり「演技の映像を撮ったものを買えるとわかって頂ければ。一番のライバルはほかの業者さんではなく、お父さんのカメラなので(笑い)」

 

撮影可能な発表会なんかでは性能の良いカメラを持っているお父さんを見かけますしね。

和明「家庭用ホームビデオでも4Kカメラがありますから。普通のことをやっていたら、我々の映像は買ってもらえないです」

ゆかり「業者さんが撮った映像よりも“お父さんが撮っているほうがきれい”という声も聞くので。そちらは愛情たっぷりのカメラですが、こちらはいろんな角度から撮った選手の様子を見て欲しいなと思うんです」

 

自分たちで撮っているのと変わらないクオリティであれば、わざわざ買う必要はないですからね。

和明「我々は家庭のビデオカメラでは撮れない様々な角度や場面の映像をマルチカメラで撮るので、それはさすがに真似できないと思います」

 

マルチカメラを採用されたのはいつからですか?

和明「2年前ぐらいでしょうか。ただ、間違えたらアウトでしょ。最初の頃はミスしないように、気を張っていたので、のどがカラカラになったり、頭が痛くなったり、大変でした。慣れてきたら大丈夫になりましたが」

ゆかり「他人事みたいなことを言いますけど、すごいなって思うのは10時間以上カメラに向き合っていて、製氷中も作業しているんです。いつ休憩するのかなって思っています」

和明「大変ですよ。でも選手たちやそのご家族のために頑張らないといけないんです」

ゆかり「とりあえずいつでも撮れる体制だけはとっていますね」

和明「だからカロリーメイトとかウィダーインゼリーとか。お腹がすいたらパッと食べられるようなものをつねに用意しているんです。撮影している間は動けないので」

 

10時間以上、ずっと立ちっぱなしの作業ですもんね。

ゆかり「それでもすごく楽しいみたいです。全然飽きないって言っていますね」

和明「カメラも良い性能のものがどんどん出てきているので。良いものが撮れるとそれがまた欲しくなるんですよね。堀江貴文さんが以前、“飽きるっていうのは、そのステージを超えた、レベルが上がった”というようなことをおっしゃっていたのを覚えています。飽きるということはこのレベルにとどまらないで、もっと上を目指せるという意味だと。そうするとやりがいが出てくるのです。私たちは何よりもお客さんを驚かせることが、一番楽しいんです。“こんなところまで撮ってくれるんですね”と言われるのが嬉しい。演技だけじゃなくて、それの前後にストーリーがありますからね」

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自分の出番が来るまで緊張している表情、終わってホッとしている表情などを選手や親は見たいわけですからね。

和明「そうです。うちはそういうのを撮ればいいので」

ゆかり「おじいちゃん、おばあちゃんに見せたいでしょうしね」

和明「親御さんがよく言うのは、きれいに映る性能の良いカメラで撮ると、“うちの娘が上手に見える”と。自分の娘が滑っているように見えないとか。しょぼい画質だとうまくても魅力的に見えないんです」

ゆかり「4Kでもピンキリじゃないですか。そのあたりはこだわって、出し惜しみはしないですね。あとでお金はついてくると思うので」

和明「今のところ、“このカメラを買うぞ”と言って買ったものに対して売り上げがついてくるから、彼女(ゆかりさんのほうを向いて)は何も言わないです(笑い)」

 

いま、使っているカメラっていくらぐらいなんですか?

和明「メインのカメラは400万円ぐらい。サブのカメラは20万円ぐらい」

ゆかり「それを簡単に欲しいっていうんですよ」

和明「私がフィギュアスケートを撮り始めたころは放送局の中古のカメラを買っていたんです。機材は新品で買うと700万円ぐらいするんです。それを中古で10年ぐらいたったのを買うと10分の1ぐらいの値段だったんです。でも今は新品を買ったほうがいい。200万~300万円ぐらいですごいいいのが手に入るし。安くてこんなに性能がいいの?っていうぐらいです」

ゆかり「業務用のスイッチャーも高いんです」

和明「切り替えるのも7080万円したのが、いまは10万円ぐらいで手に入るんです。最新のほうが安くて性能もいいんですよ」

 

先入観なく、すべての選手たちと接する

 

選手たちとの距離感はどう保たれているんですか?

和明「撮るのが仕事なので、話すっていうことはほとんどないですね。親御さんに対しては彼女(ゆかりさん)が対応してくれています」

 

選手個人の成績がどうというより、全選手同じように対応されているんですね。

ゆかり「そうです。なので、この名前の選手は強化指定だとかはなるべく意識しないようにしています」

 

その距離感が選手や親御さんにとっても良いのでは。

ゆかり「変に格式張ったり、緊張する必要もないなって思います。全員、お客さんとして大事に思っているので」

 

これまで数多くの選手たちを撮ってこられたわけですが、あの選手は“こうだったなあ”と思い出されますか?

ゆかり「(和明さんは)有名な選手たちだけじゃなくて、一般のお客さんのこともよく覚えていますよ。いま、ジャッジしているあの人も買ってくれたとか。何年前のあの大会のときには傷があって、そこにばんそうこうしていたイメージがあるとか。そういうのを覚えていますね。いまは受付してないので、選手の名前と顔が一致していない場合もあるようです」

和明「昔は自分で受付していたのと、選手も今ほど多くなかったので、この子はどこのクラブで、どこの試合をやっていてとか、ほとんど覚えていました。その子たちがいま、コーチやジャッジをやっているのを見ると、感慨深くはありますね」

 

いまは選手の数も増えましたしね。

ゆかり「うれしいことですね」

 

スタッフはこれ以上、増やさないんですか?

和明「探しているんですけど、なかなか条件が合う人がいないんですよ」

ゆかり「見習いで来られても遠方には行けませんとか、これだけ欲しいですとか」

和明「本当にスケートが好きじゃないと、厳しい仕事ではあるんですよね」

ゆかり「うちもそんなに余裕はないので、宿泊も車中なんですよ」

 

車中泊なんですか?

ゆかり「そうです。ふとんを積んで」

 

それは大変ですね! 移動も車ですよね?

ゆかり「そうです」

 

それはスケートが本当に好きじゃないと続かない仕事ですね。

和明「宿泊費が浮くと助かります」

ゆかり「絶対、2人分いりますからね」

和明「今日はどうしても泊まらないといけないっていうときは、安いシティホテルを探したりしますが」

ゆかり「夜中11時ぐらいに大会が終わりますよね。次の日、朝5時に入るでしょ。そうするとホテルに入る時間がほとんどないんです。ホテルをとるほうもばかばかしいな、と思います」

 

ではお風呂はリンク周辺の銭湯に?

ゆかり「そうです。お風呂に入って、車でリンク近くの駐車場に戻って寝ますね」

 

それが一緒にできるご夫婦っていいですね。

和明「そうなんです。夫婦じゃなかったらできないですね。それは助かります」

ゆかり「結婚する前、アルバイトさんにきてもらっていたので、その費用を計算したら、“これだけでマイナス…”っていうのがありました」

 

夫婦だったら車中泊なんてことも一緒に共有できるわけですから。

ゆかり「そうです。そのあたりは共有できますからね」

 

良いお話が聞けました。ありがとうございました。

 

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